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4.4 土星の磁気圏とタイタンのメタンの湖

[タイタンの表層を高速で掃引する土星の磁気圏によるメタンの湖の形成]
 タイタンの公転軌道の半径は約120万kmで土星の磁気圏は110万kmであり、公転軌道の95%は土星の磁気圏の中 を通過します。 その磁気圏は土星の自転で10.7 時間の周期で回転していて、タイタンの公転軌道では195.6Km/secで運動しています。 高速で運動する荷電粒子は磁気的に結合した寿命の長いプラズマになります。
 土星の衛星のタイタンは16日の周期で土星の周りを公転していて、タイタンの公転の速度は5.5km/secです。 そこで、プラズマを磁束に巻き付けた磁気圏がタイタンの表面を190.1km/secで掃引します。 190.1km/secの速度を持つH+がタイタンの表面に衝突すると(1/2)mv2=189(eV)の運動エネルギーでタイタンの大気の気体分子のN2またはCO2と衝突します。 一部のHはタイタンの表面をスパッタ―して、原子やイオンに分解して放出します。高速のH+と大気中のN2の衝突によりNH3を合成し、 H+と衝突したCO2はH2OとCH4を合成します。
 タイタンの表面温度がTtitan =93K (=-180℃)であり、NH3 または H2O は固体の地殻になりますが、N2は融点が63 K で、沸点が77 Kであるので大気に蓄積されました。 CH4の融点は91 K で、沸点が112 K であり、C2H6の融点は90 K で、沸点が185K であり、それらの炭化水素の分子が液体状態で地表に蓄積されます。 こうして、タイタンはN2を主成分とする厚い大気を持ち、メタンの湖ができました。 現在、タイタンの大気組成は N2(97%)、CH4(2.7 ± 0.1%)、H2(0.1~0.2%)です。

[タイタンの大気のスーパーロテーション]
 スパッタリングされて生成されたH2は融点が14Kで沸点が20Kであるので、上空に上昇して一部は宇宙に放出されますが太陽風により、H+ の補給が続けられます。
 タイタンに直接到達するH+イオンの量は、太陽を中心とした土星の位置までの距離の球面{Ssphere=4π・(9.55x1.5x1011)2=2.58x1025 }とタイタンの断面 {STitan=π・(2.575x106)2=2.084x1013 }との比,、および太陽から放出されるH+の量109kg/secを用いて求めるとタイタンに到達するH+イオンの量は 0.81x10-3 kg/secになります。その量は、1日に換算すると70kgであり、1年で25.5 t であり、40億年間に到達した水素イオンの量は1020億トンです。 その量はタイタンの質量の1.345×1020 t と比較して、10億分の1です。
 タイタンの大気のスーパー ローテーションは太陽風の回転成分ではなく土星の磁気圏の回転により駆動さます。タイタンの赤道付近の土星に面した側と裏側では土星からの距離の差があります。 そこで、磁気圏に捉えられたH+が衝突する速度には±2.1x10-3の差があるので、最大で 822 m/secの速度差があって、土星の自転と同じ反時計回転方向で周回するスーパー ローテーションを発生させます。


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